イベントレポート
2023.12.28

池坊専宗 青年部始動記念企画~今、私たちを考えて~ 当日レポート

9:00
11月11日イベント当日の朝、2Fホールの様子です。
ブラインドの上がったこのホール「てっせん」は目一杯に外の光を受け取ります。

窓辺には一輪挿しのカサブランカが 3 瓶。
朝の光を見事に透き通していて、とても清々しかったです。

記念品の乾杯ドリンクも整列して、イベントを心待ちにしています。
開始まで、もう少し待ってもらいます。

10:30
続々と参加者が入り、会場が賑わってきました。
参加記念品と乾杯ドリンクを選んでいただきます。

11:00 開始時刻
スターウォーズの BGM で
舞台まで進む専宗さん。
専宗さんの挨拶で、
イベントスタートです。

ゲストの桂吉坊さんは出囃子で登場。
噺はいつも座ってするとのことですが、今回は 15 分間立ちでの舞台です。
「落語では立って話すとどうしても登場人物ごとに立ち位置を変えてしまって、喋りのみで場面を表現することが難しくなってしまうんです」
というエピソードもお聞かせくださいました。
業界ならではの豆知識に、会場もなるほどという様子。

11:30
舞台脇に控えていた池坊横浜碧洋会支部 青年部長 川嶋孝憲さんのご紹介です。
吉坊さんの喋りのあとで緊張されている様子でしたが、とても穏やかなお人柄がうかがえました。
絶妙なコメントで会場を和ませてくださいます。

そのまま、舞台にあるお迎えの花に仕上げの花をいける段に。
冒頭でご紹介した、一輪挿しのカサブランカを使いました。
司会を務めた藤井真さんが朝5時半からいけたという「和」がテーマの自由花。

藤井さんは睡眠時間が3時間ということでしたが、
ここまでもこのあともそんなことを全く感じさせないキレキレの仕切りで場を回してくださっていて、すごかったです。
3 名とも黙々と挿し位置を定められていて、作品はほどなくして完成しました。
明るい白色が加わり、会場には「お~」という歓声と拍手。
皆様喜んでくださっていました。

11:40
続いて乾杯。
BGM は映画『LA LA LAND』の‟Another Day of Sun”でした。
今回は専宗さんと吉坊さんの登場時も音楽を流しましたが、場面と雰囲気が一致するので、音楽はすごいですね。

記念品のタンブラーは、池坊の I を二つ重ねたデザインのロゴを採用。
これから renewalしていくという想いを込めたデザインです。

会場の皆様と記念撮影の様子です。
3、2、1・・・ハイ!

「人数が多いですけど、大丈夫ですか?」「・・・OK です!」
という確認時の一幕に会場もクスリ。皆様ばっちりと写りました。

11:45 Discussion
さて、メインのパネルディスカッションに入ります。
テーマは「今、私たちを考えて」。
登壇者それぞれの「道」(いけばな、落語、造園)について緩い質問、真面目な質問を交えながら振り返っていきます。

5 つの質問をご用意。
どのテーマでも会話が大きく広がったのですべては拾いきれませんが、いくつかピックアップしてご紹介します。

1.川嶋さんと吉坊さんに聞く、「いけばな・落語に出会ったきっかけ」
川嶋さんは就職した造園会社の社長さんからの勧めだったそう。
造園会社に入るきっかけは、中学生の頃にお花係になったこと。
そこでお花に興味を持ち、園芸高校へ進み、お花の道が開かれていきました。
…少年時代までさかのぼることになりましたが
吉坊さんも初めてお花に親しみを持ったのは小学生の時だそうで、
教頭先生が折れた花を見て悲しむ姿が印象的で花を愛でる気持ちをそこで知ったと仰いました。
そしてご自身の分野落語にはラジオを通して出会ったとのこと。
進路に迷っていた中学二年生のとき、落語家だったら中卒でもなれるということを知ったのが落語の世界に入るきっかけだったといいます。
その後結局、師匠の勧めで高校には進学したそうです。

2. 自覚する職業病は?
吉坊さん → すべてをネタにしようとしてしまう。
専宗さん → 気づけば持ち物を減らすようになっている。
司会者からの「最近これを捨てた、というのはありますか?」という質問に
「カメラのレンズや服を人に譲ったりして、どんどん更新していますね」との回答。
いけばなの簡素な美のように、物を減らすことで出来るだけ身軽に過ごしているそう。
“花を留めと鋏さえあれば出来る”。考えてみれば、そうですよね。考えさせられます。

3. 師匠はどんな人でしたか?そして、その師匠の尊敬できないところは?
川嶋さん
→お花が一番という人。
尊敬するところしかないですが・・お花が好きなゆえの厳しさのある人。
吉坊さん→いらちで天邪鬼だった。そんなところは真似しないでおこうと思いました。
専宗さん→食に対する興味がなさすぎる人。お花のことになると寝食を地で忘れていくような。
一対一でのお稽古なので、ほぼ軟禁状態ですよね(笑)
二人の師匠のうち、一人はいつ行ってもヒレカツ弁当の師匠。
そしてもう一方は熱中しすぎて「ご飯なくても、いいよね」という体で特に触れられない。といった感じで、‟ヒレカツか、ないか“
それで私は、教えるときは「なんでも食べていいよ」というスタンスでやっています。

4. 仕事上でのターニングポイント
川嶋さんは、横浜公園のリニューアルに携わったこと。
そのプロジェクトで「この人についていけば大丈夫だ」という人に出会い、ただ造るのでは
なく、“想いを持って造っていくこと”が大切だと実感したのだそうです。
ちなみに、そのスタジアムには川嶋さんが造った“隠しハート”が5つあるとのこと。
「全てみつけると幸せになれますよ」と、いつか訪れた際の楽しみも教えてくださいました。
専宗さんも、ぜひ探しに行くように参加者に勧めていました。

そんな専宗さんは、‟思い出は花形の数だけある”といいます。
池坊において非常に大事にされている花伝書の文言“がしなく草木の心”=“私なく草木の心
に沿って生きよ”を念仏のように呟き続けるヒレカツ弁当の師匠や、寝食忘れる師匠の「い
ままでの型にとらわれない、植物を素直に見つめられるようになった」という言葉。
これといったターニングポイントとなる出来事はないけれども、そんな師匠たちの言葉が
花をいけるときに思い出されるとのことでした。

吉坊さんは、師匠がなくなったこと。
自分の終わりを見据えている人の芸に対する向き合い方を知ったことに加え、
師匠=憧れの人はいつまでもいるわけではなんだな、と実感したことは心構えが変わった
きっかけだったといいます。
「・・・笑いのない話ですみません」という申し訳なさそうな言葉に、
「そういう話も出来るんですねえ」と笑いを誘う専宗さん。

5. 自分がいる業界が、これからどう発展していくと良いか
一言ずつボードに書き記します。
川嶋さんは、『魅力』
吉坊さんは、『噺の家の人』
専宗さんは、『一人ひとりの勇気』
それぞれに込めた想いとは・・・

川嶋さん
庭や建築物が美しくなっていく姿を見せて、造園という職業の魅力を発信していきたい。
職人が作業を見せるだけでなく、花を植えたり木を植えたり、そしてそれらが育っていくと
いう造園の良さであったり、人々がそれらを見て和んでくれることにやりがいを見つけて
もらえるような魅力発信が今、大事なのだと思います。

吉坊さん
家と言うのは住む人がいなかったり、掃除をしなかったりすると壊れてしまうけれども、
それは芸も同じ。私は落語という家を創っていく人でありたい。
そして、“噺=口に新しい”
今の人に喜んでもらえることと、今までも喜んでもらえていた噺。
それぞれに共通するポイントがきっとどこかにある。
そんな噺をしていくことが大事なのだと思う。

専宗さん
いけばなを知らない人にいけばなのことを伝える、そんな最初の一歩を踏み出す勇気を持
つこと。世の中に色々な楽しみがある中で、いけばなはそのひとつとして選ばれるというも
のだと思う。そうであれば、いけばなをしている人ひとりひとりが発信していくことが求め
られる。人に伝えると面白い発見があったり、自分が客観視されることでもある。人に伝え
ることは自分のよろこびにもつながっていく。
そのような、人に伝えていく喜びというものを感じてもらいたい、と本心から思っている。
皆さんも家族・友人・職場の人へ伝えるところからいうことをしていってほしい。

三者とも自身の分野を深く愛していて、「人に伝えること」を大事に思っている・・
そんなことがハッキリと示された時間でした。

また、最後の一言で吉坊さんはこのようにも。
「人前で喋っていると、生きているなあという気がいたします。
(かつて 2000 人もの観客が師匠たった一人を見ているという状況を見て「すごい世界に
いるのだなあ」と感じたこともあったそうで、そんな)憧れの人がいることで人生が豊か
になっていくと思う。今度は自分が憧れられる人になっていく、ということも目標の一つ
だと思っています」

専宗さんからこの日を締めくくる一言。
「いけばなも実践を重ねることが大切だと思います。
伝えることで、ひとりひとりが幹となっていく。
そうすることで力が何倍にもなります。
一緒に頑張っていきましょう」


After talk

イベント終了後のラウンジ 235。出演者三名が感想を出し合いました。
緊張の解けた午後、⽇の差し込む暖かいラウンジにて弾んだ会話をお届けします。

宗:専宗さん
吉:吉坊さん
川:川嶋さん

Q.本⽇はいかがでしたか?

宗:こういうお花の場に入って話すということはなかなかないですよね。

吉:そうですね。さあ何の話をしようかと思ったときに、植木屋さんの噺も知っている
から、そういう話もしようかと。成り立ちというか、ご縁の深さというか、そうい
うものをご紹介出来たら良いかな、という思いで喋らせていただきました。皆さん
非常によく聞いてくださって、有難かったです。

宗:座りと立ちの違いというのも、本当に目から鱗というか・・
花の話もしっかり入れてくださって、掴みも抜群でしたよね。

川:あの後にお話しするのは難しかったです。(笑)

宗:場をほぐされるのがお上手だから、僕たちも喋りやすかったですよね。

吉:そう言っていただけるとやっぱり嬉しいですね~。
それこそ、大槻能楽堂で専好様がいけてらっしゃるのを拝見しましたけど、お花と
いうのは緊張の場でやるものなんですね。僕たちも見ていてとても清々しい感じが
します。

宗:あ、そうですか!

吉:あの緊張感の中にいけるというのも楽しいし、また今日のように何か話をしながら
いけるというのもあるじゃないですか。花を中心にして色んな感情が生まれる・・
そこが楽しいんやろうなあと思いました。

宗:お花は結構メリハリがあって、お稽古をするときはお茶が出てきたりして和気あい
あいとお菓子をつまみながらなんてこともありますけど、今日お話ししたみたいに
軟禁状態の中ピリーッとした感じでいけることもあったりして・・

川:ギャップが激しいですよね。花展の時はとくに空気が張りますし、あっという間に
時間が過ぎてしまいます。

宗:今回は花展でピーンと張って、こういう会でちょっとほぐれて、すごい良かったん
じゃないでしょうかね。

吉:お花ってやってみたらわかるものでしょうけど、されてない方からするとイメージ
がひとつしかなかったりしますよね。出来上がったものひとつしか・・
だからこそ、みんなが紹介していくと良いですよね。

宗:それに今日は異業種の交流で三人とも違うから、それも面白かったですよね。
川嶋さんも造園と偶然出会いましたし、吉坊さんはラジオを通してだし、そういう
意味ではすごく不思議な感じがしますよね。

吉:僕たちはそういうのを「出会い頭」と言うんですよね。
一生の仕事に出会ってしまう、というような。

宗:「出会ってしまう」

吉:まあそれはいつであってもいいんですけどね、結局。

宗:自分のいいタイミングで出会うということですね。
こうして三人でこんな話が出来たのもいいご縁、出会いがあったということですね。
今後ともこのご縁を大事に、またぜひお話しする機会が出来ればと思います。
今日はありがとうございました。
一同:ありがとうございました。

こうして新たな船出を切った青年部。
今後自ら舵を取って進んでいくために、今回深めた考えやこの会から繋がるご縁を大切
にしていきたいと思います。今回出演者が気づいたきっかけの数々と同じように、参加
者の皆様にとってもこの日が今後の自分たちを考える「出会い頭」になっていたと、何
かの折に気づくことがあるかもしれません。
今回のレポートはここまでですが、青年部本部は今後も続く活動を記していきます。
ともに進んでいきましょう。
よろしくお願いいたします。

to be continued…

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